2024年7月9日火曜日

地震予知に大きく前進 — ロス・アラモス研究所

 
第2次世界大戦中に原子爆弾開発の中心となったことで有名なロス・アラモス国立研究所の発表です。断層が地震発生前に発する信号はこれまで意味のないノイズとして無視されてきましたが、実は、断層の変位、摩擦、厚さなどの物理的特性を推測するための情報を豊富に含んでいるとのこと。さらに最も重要な点は、ロス・アラモスの科学者が信号の中に高度に予測可能なパターン、すなわち、断層破壊までのタイムラインを発見したこと、とのことです:
 
発表の概略 ——

ロス・アラモス国立研究所の研究チームは、人工知能の応用である機械学習を用いて、地震に先行して現れる隠れたシグナルを検出した。ハワイのキラウエア火山での発見は、ロスアラモスで先駆的に行われた数年にわたる研究努力の一部であり、この最新の研究は、大規模な破壊を引き起こす可能性のあるスティック・スリップ断層(stick-slip fault、固着と滑りを繰り返す断層)で、科学者がこのような警告信号を検出できた初めての事例である。

研究チームは、米国地質調査所ハワイ火山観測所が 2018年6月1日から 2018年8月2日までの間に記録したデータを使用した。この期間にハワイの火山ではさまざまな規模の地震が 50回以上発生した。研究者たちは地震データの 30秒間のウィンドウに焦点を当てた。彼らのモデルは、各地震の歪み蓄積サイクルを追跡する指紋に相当する隠れた信号を特定した。平均して、その隠れた信号は、検出可能な大きな地盤変動の前に連続的に現れた。

以前のテストと総合すると、今回の結果はいくつかの地震断層が同様の物理特性を共有していることを示唆しており、この手法は世界中の地震の危険性を評価するために使用できることを意味する。

ノイズのパターン

今回の研究は、機械学習によってこれらの前兆信号を検出できたカリフォルニア州と米国北西部太平洋岸の断層に関するロス・アラモスによる以前の研究に基づいている。

地殻プレートが互いに押し合うと、地表に弱い振動が発生する。これを連続音響放射または地震放射(continuous acoustic or seismic emissions)と呼ぶ。これらの信号は記録すると波のように見え、これまではノイズ、つまり断層の状態を示す情報を含まないデータだと考えられていた。しかし、ロス・アラモスの研究者たちは、連続音響放射波形には実際には豊富なデータが含まれており、変位、摩擦、厚さなど断層の物理的特性を推測するために使用できることを発見した。

最も重要なのは、ロス・アラモスの科学者が信号に高度に予測可能なパターン、つまり断層破壊までのタイムラインを発見したことである。

「これらの連続信号を見ると、断層が歪み蓄積サイクルのどの位置にあるのかを示す情報を引き出すことがでる」、「ノイズがどのように変化するかを調べており、それによって断層の現在の状態とスリップ・サイクルのどの位置にあるかの詳細がわかる」とロス・アラモスの地震学者でチームの主任研究者であるクリストファー・ジョンソン氏は述べている。

スロー・スリップからスティック・スリップへ

『Geophysical Research Letters』誌に掲載された今回の研究は、実際の地震発生源である断層にこの手法を適用し成功した初めての事例である。今回のケースで対象となったのは、キラウエア火山で発生した一連の非常に活発なマグニチュード 5 クラスのスティック・スリップ断層由来の地震で、数か月にわたる地震活動によってカルデラが 1600 フィート(約490m)沈下した。

この地震活動の間、全地球航法衛星システムによって、地表のミリメートル単位の変位が測定された。その後、機械学習モデルがこのデータを分析し、地震信号を処理し、地表の変位と次の断層破壊までの時間を推定することに成功した。

以前、ロスアラモスの研究者たちは、同様の機械学習モデルをスロー・スリップ現象に適用したことがある。スロー・スリップ現象とは、地震発生の数日前から数カ月、あるいは数年前から地盤が微妙に揺れる現象である。このような大規模なデータセットは、機械学習モデルの訓練に役立った。しかし、最も破壊的な地震は、キラウエア火山で見られるようなスティック・スリップ断層によって引き起こされる。スティック・スリップ断層は、より強い地震動をより急速に発生させるため、これまでは予測が困難であった。
 
 
ハワイの火山で起きる地震のデータを用いたのは、短期間で多くの地震が起きることが主要な理由であるようです。遺伝学の実験に、一世代が短く、短期間で多くの世代の変異を見ることができるショウジョウバエが使われるようなものかも知れません。