2011年10月5日水曜日

深さ 10km ちょうどの地震 (その7)


この一連の記事の「その2」で引用した【事例5】、「その3」で引用した【事例6】と【事例7】について検証してみましょう。

【事例5】については、「中略」とした部分に次のような引用があります:
地震情報(震源・震度に関する情報)平成23年4月9日22時2分 気象庁発表きょう09日21時58分ころ地震がありました。震源地は、種子島南東沖(北緯30.0度、東経131.9度)で、震源の 深さは約10km、地震の規模(マグニチュード)は5.7と推定されます。

4月9日21時58分ごろの地震について、気象庁が4分後に発表した情報、つまり速報値が使われています。

【事例6】では、5月25日午前5時36分に福島県で発生した地震について述べていますが、投稿のタイムスタンプは「08時46分17秒」となっており、この時点までに使える情報は速報値しかありません。

【事例7】では、「中略-1」とした部分に以下のような引用があります:
情報発表時刻 2011年7月5日 19時38分
発生時刻 2011年7月5日 19時34分ごろ
震源地 和歌山県北部
緯度 北緯34.0度
経度 東経135.2度
深さ 10km
規模 マグニチュード 4.4

この引用部分は Yahoo の地震情報からコピーしてきたと考えられますが、情報発表時刻が地震発生の4分後であること、地震発生時刻が「~ごろ」と曖昧になっていることなどから、やはり速報値にもとづいていることは明らかです。

以上の検証からわかるように、事例5から事例7までは、いずれも速報値に含まれる震源の深さの情報を人工地震説や陰謀説の根拠にしているわけです。それらが 10km 刻みの精度しかなく「根拠」となりえないことは、拙文をここまでお読みくださった読者には自明であると思います。

これまで述べてきたことを踏まえて、もう一度、事例1から事例7まで、特に事例6と事例7を読み返してみてください。読者は、どのような感想を持たれるでしょうか。

自説の根拠となるデータをよく吟味せず、その信頼度や有効桁数に無頓着 ―― これは人工地震説や陰謀説に傾倒する人たちの粗雑な思考過程を如実に示しているのだと思います。事例6や事例7に至っては「ずっと自然界の対応の地震をやっていますので、その地震が自然界か人工的なもので有るからはすぐに分かります」(原文のまま)とか「~と思っておいて良いです」などとまるで地震研究のエキスパートであるかのような口ぶりですが、地震についての基礎がまるでわかっていないというのが実態のようです。


[補足] 最後に、震源要素の決定に使われる観測点の数について触れておきたいと思います。ある地震の震源の深さが 10km とか 20km といった「きり」のよい数値になっていた場合、これが実際の深さなのか、精度良く深さを決定できなかったために大まかな数値になっているのかを判断するには、震源要素の決定に使われた観測点の数を考慮する必要があります。「その6」でリンクを張った気象庁の文書には、速報値では約180点、暫定値では、気象庁の観測点だけでなく他機関や大学の観測点も合わせて最大約3100点を用いて震源決定をおこなう、と書かれています。これが判断の目安になると思います。とりわけ、経度や緯度に比べて精度良く決定することが困難とされる震源の深さについては、観測点の数が数百程度では「速報値」なみの精度、つまり 10km 刻み程度、と考えた方が良いと思います。地震データベースからダウンロードした情報には、個々の地震について震源要素決定に使われた観測点の数が記載されているのが普通ですので、確認してみることをお勧めします。


(続く)


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