2011年8月4日木曜日

彗星の太陽突入とコロナ質量放出(CME)


以下の動画は、NASAのゴッダード宇宙飛行センターが SOHO(Solar & Heliospheric Observatory = 太陽・太陽圏観測衛星)の観測画像をもとに制作したものです。画面の下の方から彗星が太陽に接近し、太陽面に到達したと思われるタイミングでコロナ質量放出(CME = coronal mass ejection)が発生しています:

画面中央の赤い円盤は太陽光を遮ってコロナを観測しやすくするための遮蔽板です。その中に白い線で描かれているのが太陽の位置と大きさです。

彗星はクロイツ群に属すると推定されています。この彗星の太陽突入が観測されたのは、今年5月11日から12日にかけてです。

彗星が太陽に突入したとしても、雪合戦に使う雪玉を溶鉱炉に放り込むようなもので、彗星は一瞬で蒸発、プラズマにまで分解されて雲散霧消してしまい、太陽は微動だにしないと私は考えていました。ところが、この動画を見ると太陽面で大規模な爆発的現象(CME)を引き起こしているように見えます。

しかし、しかし、―― 動画につけられている解説を読むと、CMEが発生したのは彗星が太陽面に最接近する直前とのこと。それを頭に入れて動画を見直すと、遮蔽板が邪魔になってわかりにくいものの、たしかに彗星が太陽面に突入するよりも前にCMEが起きているようです。

ゴッダード宇宙飛行センターがこの動画につけたコメントには次のように書かれています:
科学者たちは、太陽をかすめる彗星とコロナ質量放出の関係について、説得力のある物理学的説明を見いだせずにいます。実際のところ、この動画に写っているCMEを別の太陽観測衛星・SDO(Solar Dynamics Observatory)の撮影した画像をつかって分析したところ、彗星が太陽表面に十分に近づいて太陽の強力な磁場と相互作用するよりも前にCMEが噴出していることがわかります。

SOHO は太陽に接近または突入する彗星を、これまでに2000個以上発見しています。それらの彗星のほとんどはCMEを引き起こしていません。上記の動画に写っているCMEは、彗星の接近・突入とは無関係に偶然発生したということなのでしょうか。

余談ですが、CME(coronal mass ejection)に対しては「コロナ質量放出」という訳語が定着しているようです。しかし〝mass〟という単語には「質量」という意味以外に、「大量の」とか「大規模な」といった訳もありえます。私はCMEを「コロナの大規模な噴出」とか「大規模コロナ噴出」と訳した方がしっくりくるように思うのですが、どうでしょうか。


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