2009年2月2日月曜日

F22 ラプターと日本

1月30日、31日と2夜連続で NHK のニュースが、アメリカの最新鋭戦闘機 F22 ラプター(raptor 猛禽)に関する報道をしていました。今年に入ってから私が目にした F22 と日本の関係についての主要な報道を、時系列を遡ってリストアップしてみます:

1月31日夜の NHK報道は、F22 の生産終了方針に関して、米国議会上院・下院の議員あわせて238名が連名で、生産継続を求める書簡をオバマ大統領に送っていたことが判明した、という内容です。そして、F22 は日本政府が自衛隊の次期主力戦闘機の有力候補としているが、アメリカ議会が軍事機密の保護を理由に輸出を禁止していることと、F22 に生産打ち切りの可能性があることが障害になっている、と伝えています。

1月30日夜の NHK報道は、F22 が沖縄の嘉手納空軍基地に一時配備(約3ヶ月間)されているという内容です。F22 の一時配備は 2007年2月以来 2度目です。戦闘機とパイロットだけでなく、整備員や戦闘支援要員など約250人も派遣されています。

1月12日には、『レコードチャイナ』が次のような記事を配信しています:
1月7日には、『ジェーン海軍年鑑』で有名な Jane's のサイトが次のような記事を掲載しています。日本が F22 を次期主力戦闘機の候補とすることを断念したとの一部報道を、防衛省がただちに否定したという内容です。F22 を評価するための基本的な技術情報すら米国から提供されていないという厳しい現状が背景にあります。記事では、F22 以外に候補となっているのは、ダッソー・ラファール、ユーロファイター・タイフーン、ボーイング F/A-18E/F、同 F15FX、ロッキード・マーチン F35 ジョイント・ストライク・ファイターであると伝えています:
自衛隊が F22 を次期主力戦闘機にしたい理由は明らかです。現時点で最も強力な戦闘機であり、現時点で実戦配備されている唯一の第5世代戦闘機だからです。F22 は、「先制発見・先制攻撃・先制撃破」(first-look, first-shot, first-kill)という戦術運用コンセプトをとっており、模擬空中戦で敵機 242機を撃墜、味方の損失はわずかに 2機という驚異的な撃墜率を記録しています。米軍では F22 を、制空戦闘機(Air Superiority Fighter)とは呼ばず、地上も含めた彼我の空間全体の絶対的支配を意図する航空支配戦闘機(Air Dominance Fighter)と位置づけています。さらに、F22 はメンテナンス性も良く、高い稼働率を誇っています。最大の難点は、値段が非常に高いこと(現在の円高でも 1機あたり 100億円超)で、米軍自身がこれに悩まされています。

日本の報道では、F22 のステルス性能ばかりが取り上げられるきらいがあります。しかし、私は F22 の持つ「スーパークルーズ」と呼ばれる超音速巡航能力に、もう少し注目しても良いのではないかと思っています。主要国の保有する主力戦闘機は、みな超音速飛行能力を持っていますが、超音速を出すためにはアフターバーナーと呼ばれる燃料噴射装置を使います。これは、エンジン後部に燃料を噴射してエンジンの出力を高めるものです。当然のことながら燃料の消費が大幅に増えますし、エンジンの温度も上昇するため、使用時間に制限があります。たとえば、米軍の FA18 ホーネットの場合、アフターバーナーの連続使用可能時間は 15分程度です。これに対して、F22 はアフターバーナーなしで、長時間超音速で飛行することができます。もともと大きな推力のエンジンを搭載していることに加えて、ステルス性を高めるためにミサイルなどの搭載兵器を機体内部に格納するので空気抵抗が減少していることから可能になったと言えます。この超音速巡航能力は、あらゆる局面で有利にはたらきます。

日本が F22 を次期主力戦闘機として調達できる可能性はあるのでしょうか。最大の障害は、なんと言っても米国議会が高度技術の流出を危惧して、F22 の輸出を禁止していることです。機密保持に関しては諸外国からまったく信用されていない自衛隊の現状も、足を引っ張ります。さらに、中国や韓国が反対し、米国議会に対して猛烈なロビー活動を展開することが予想されます。中国重視が本音といわれる民主党政権が、中国の反発を無視してまで禁輸解除を積極的に進めるとも思えません。

中国軍部は、台湾のみならず長期的には日本を海上封鎖する能力を保有することを目指しているふしがあり、その戦略の観点からも、日本が F22 を保有することは受け入れがたいことでしょう。ソ連によるベルリン封鎖や、キューバ危機に際してアメリカがおこなった島国キューバの海上封鎖を想起すれば、封鎖が島国日本にとって強力な圧力となることは明らかです。ベルリン封鎖の場合は、近隣諸国からの大規模な空輸作戦によって食料などの必要物資を運ぶことができました。しかし、中国が日本を海上封鎖できるような国際環境にあっては、かりに航空路が確保できたとしても、近隣アジア諸国で空輸に協力する国はほとんどないでしょう。あったとしても、ベルリンのときに比べれば距離も遠く、また、ベルリンという都市と日本の人口を比べれば、必要とする物資の量は桁違いで、とても空輸でまかなえるものではありません。結局、日本はエネルギー不足や飢餓に陥り、屈服せざるをえないでしょう。最終的には、中華人民共和国の倭族自治区か、東海省になってしまうのかもしれません。

日本が F22 を次期主力戦闘機として調達できる方向にプラスにはたらく要因としては、上に紹介した 「F-22戦闘機を対日輸出せよ!中国の軍事大国化に備え提言―米保守派」といった声や、F22 の生産継続を求める議員の動きがあります。経済危機で苦境に陥った軍需産業を救済する必要から、今後このような動きが強まる可能性があります。さらに、国防総省や米軍内部にも、F22 を海外輸出することによって F22 の生産台数を増やし、1機当たりのコストを低下させたいと考える人たちがいます。当初、アメリカ空軍は 750機の F22 を配備する計画でした。それが、国際情勢の変化や国防予算の削減などで年々減らされ、現在では 183機の配備が認められているにすぎません。これでは実戦的な運用が不可能であるとして、空軍は追加配備を求めている状況です。

可能性は低いですが、かりに米国議会が F22 の輸出を認めたとしても、日本に輸出されるのはフルスペックの F22 ではなく、レーダーなど電子装備の性能を落とした「機能限定版」になると思います。また、従来認められていた日本でのライセンス生産は、まず間違いなく認められないでしょう。

Image Credit: U.S. Air Force photo by TSgt Ben Bloker