2011年7月27日水曜日

謎の発光現象 ― ハワイ


6月22日、ハワイのマウナ・ケア山の頂上に設置されている日本の「すばる望遠鏡」の監視カメラが、謎の発光現象を捉えました。以下のページには、その画像をつなぎ合わせてGIF動画にしたものと、「すばる望遠鏡」に勤務する天文学者イチ・タナカ氏のメッセージが掲載されています:

動画では数秒で発光現象が終わっていますが、実際には5分以上かかっています。以下に天文学者イチ・タナカ氏の記述を要約します:
6月22日の早朝(タナカ氏は3月22日と書いていますが、動画のタイムスタンプは6月22日なので、同氏の勘違いと思われます)、マウナ・ケア山頂にいた私たち「すばる望遠鏡」の観測者は、東の地平線上に巨大な光の輪が出現したことに気づきました。それはゆっくりと広がり、5分かそれ以上経過した後には視角45度以上に広がりました。
この現象は、「すばる」のキャットウォーク・ナイト・カメラとCFHT(カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)の北北西に向けたウェブ・カメラに記録されました。 
私たちには、この現象が何なのか皆目見当がつきません。2つの動画を比較すると、この現象はマウナ・ケア山の頂上から近いところではなく、はるかに遠いところで起きたと考えられます。それが意味するところは、この光の輪のサイズが非常に大きなものであるということです。

以下は、CFHTのウェブ・カメラで撮影された画像を動画にしたものです:

この現象の原因についてはネット上で議論が交わされ、さまざまな意見が出されています。たとえば、異次元空間への入り口か他の銀河系からのワーム・ホールが開いた瞬間だとか、エーリアンの宇宙船同士の戦闘で一方の宇宙船が消滅させられたときの閃光だ、とか。でも結局はもう少し現実的な見方が支配的です。それは、アメリカの大陸間弾道弾ミニットマン III型の3段目から爆発的に放出された燃料あるいは燃焼ガスが、大気圏上層の薄い空気の中を高速で広がったために、球殻状に光って見えたという推定です。

発光現象の背後に写っている星座の位置から、この発光現象はマウナ・ケア山から北東の方向で起きたことがわかります。ハワイ島から見てこの方向にはアメリカ本土・カリフォルニア州があります。そして、問題の発光現象が起きる数分前に、カリフォルニア州にあるバンデンバーグ空軍基地から大陸間弾道弾ミニットマン III型が太平洋上の目標に向けて試験発射されています(報道記事1報道記事2)。

ミニットマン III型は3段式の固体燃料ロケットです(構造図飛行経路図)。固体燃料ロケットは花火と同じで、一度点火すると燃料が燃え尽きるまでは推力を発生し続けます。一方、弾頭部(核弾頭と囮弾頭)を正確な軌道に乗せるためには、任意の時点で推力を止める必要があります。また、弾頭部を分離した後でも3段目が推力を維持していると、弾頭部に追突する恐れもあります(日本でも3段目のロケットが人工衛星に追突して軌道投入に失敗したことがあります)。このため、3段目の側面には燃焼ガスを逃がすために複数の穴が設けられています。この穴は打ち上げ時にはふさがれていますが、必要なときがくると火薬でふたを吹き飛ばして燃焼ガスを逃がします。

問題の発光現象は、この火薬の爆発か、その後に開口部から放出された燃焼ガスが薄い大気の中を高速で広がったために起きたのではないか、というのが現時点で最も有力な推定です。

今回の発光現象と類似した現象としては、2009年末にノルウェー上空に現れた光の渦巻きがあります(当ブログ 09年12月10日付「ノルウェー上空の奇怪な現象」参照 )。この現象については、その後の調査で、ロシアの潜水艦から試験発射された新型ミサイルが制御不能に陥り、回転しながら燃料あるいは燃焼ガスを撒き散らしたことによって発生した、ということで一件落着しています。

今回の発光現象から10日後の7月2日、「すばる望遠鏡」では、望遠鏡上部の主焦点付近から冷却液が漏れて、主鏡を含む広範囲の観測装置が汚染されるという前代未聞のトラブルが発生しました。7月22日に一部の装置を使った観測が再開されていますが、主要な観測装置はまだ使えない状態です:

発光現象に続いての「すばる望遠鏡」のトラブルは、陰謀説マニアの人たちにとっては「お話」を作り上げるための格好の材料ではないでしょうか。つまり、「すばる望遠鏡」の研究者たちが、見てはいけない物を見たり公表したりしたために、いわゆる「陰の勢力」が警告あるいは報復するために望遠鏡に対して破壊工作をおこなった……(笑)。


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