2015年9月12日土曜日

ネパールの地震とプレートテクトニクス


4月25日にネパールで発生したM7.8の大地震(USGS資料)は、死者が9000人(注)を越える大きな被害をもたらしました。この地震がどのような地殻変動をもたらしたのか、4月17日から29日の間に人工衛星から観測したデータにもとづいて作成した変動地図を、NASAが公開しています。図の上が北で、赤い部分が隆起した領域、青い部分が沈降した領域を示しています:

このNASAの地図について、地質学者の Chris Rowan 博士が自身のブログでわかりやすく解説しています。博士は、構造地質学、大陸の変形、古地磁気学を専門としています:

博士によれば、他の情報、たとえば地質学的な断面図や地震のメカニズム解などがなくても、このNASAの図だけで、北に向かって浅い角度で傾斜している衝上断層で大規模な破壊が起きたことが明らかなのだそうです。

以下に博士の解説をまとめます。説明図では右が北、左が南です。

地震発生前

地震発生前の地殻変動 Credit: Dr. Chris Rowan

  1. プレートの動きによる力が、インド・プレートを絶えず北に向かって押し、ユーラシア・プレートの下にもぐり込ませている。

  2. 両プレートの接触部分は北に向かって緩やかに傾斜する断層帯で、深さ15~20kmまでは摩擦によって固着している(図の黄色の部分)。

  3. 下側のインド・プレートの移動にともなって、上にかぶさっているユーラシア・プレートの地殻は北向きかつ下向きに引っ張られる。これによって、断層面が固着している部分の上の地面は沈降することになる。

  4. もっと北の領域では、この効果は見られなくなる。断層面が深くなると温度が上昇するので断層面の固着が弱まる。そのため、この領域では地面を下に向かって引き込む力はなくなる。その一方で、南のインド・プレートと北のユーラシア・プレートから圧縮する力を受けているので、地面は押し上げられる。

地震発生後

地震発生後の地殻変動 Credit: Dr. Chris Rowan

  1. 断層帯に蓄積された歪みが十分に大きくなって摩擦に打ち勝つと、断層の破壊が起こり地震が発生する。

  2. 地震前に生じていた隆起や沈降の地殻変動は、その大部分が弾性変形によるものであるので、加わっていた力がなくなると跳ね返って元の形にもどる。

  3. 断層の固着によって下向きに引かれ沈降していた領域は隆起し、両プレートから圧縮する力を受けて隆起していた領域は沈降する。

以下の図は、最近1年間の東北地方の垂直方向の地殻変動を示しています。2011年の東北地方太平洋沖地震の余効変動が現在も続いています。赤い矢印が隆起を、青い矢印が沈降を示しています。ネパールの隆起・沈降のパターンと非常によく似ています:

国土地理院「最新の地殻変動情報」より

(注) 死者数は5月12日に発生したM7.3の地震による死者を含んでいる可能性があります。


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