日本時間 2月 22日午前 8時 51分にニュージーランドで発生した M6.3 の被害地震については、日本人が被災したこともあってすでに多くの報道がなされています。ここでは、シカゴ大学の地質学者 Chris Rowan 氏のブログに載っている詳しい解説を紹介します。同氏のブログ記事は、2009年のイタリア・ラクイラ地震や昨年のニュージーランド・カンタベリー地震のときにも紹介しています:
上記ブログ記事の主要部分を以下にテキトー訳します。文中で 「ダーフィールド地震」 とあるのは、昨年 9月 4日にクライストチャーチ近郊で発生した M7.0 の地震(2010年カンタベリー地震)を指しています。
今から数時間前、ニュージーランド・南島最大の都市クライストチャーチが大地震に再び襲われた。USGS のページは、この地震のマグニチュードが 6.3 で、クライストチャーチから南に数キロメートルのところにあるリトルトン港の地下 5km が震源であると記載している。これは、昨年 9月に起きた M7.0 の震央がクライストチャーチの西 45km であったのに比べて、(クライストチャーチの市街地に)きわめて近い。
【図 1】 クライストチャーチ近傍で 2011年 2月 21日に発生した M6.3 地震の震央と発震メカニズム。2010年 9月に発生した M7.0 の地震の震央と発震メカニズムも描かれている。オレンジ色のドットは、今回の地震にともなう余震のうち、M5.5 より大きいものの震央。
上の図は USGS による今回の地震の発震メカニズムである。これによると、今回の地震は「トランスプレッショナル(transpressional)」、すなわち、ほぼ東西方向の圧縮に幾分かの右横ずれ成分が加わった運動が、南北方向の走向を持つ断層で起きたものである。
[追記: ここで私が言いたかったのは、(昨年の大地震を起こした)ダーフィールド断層よりも南北寄りの走向だということである。上の図に対する私の解釈が正しければ、実際の断層面は北東-南西方向である。]
昨年 9月の地震が、東西方向の走向を持つ断層で右横ずれの運動を主成分として起きたのとは大きく違っている。しかし、東西方向の断層での横ずれと南北方向の断層での圧縮は、地殻変動の観点からはほとんど同じ意味を持っている ― どちらも、ほとんど同じ地殻変動の力によって生じうる。今回の地震で生じたトランスプレッショナルな地殻の変形は、ニュージーランドを二分するプレート境界に沿う動きの全体的な傾向と整合的であると言ってよい。
【図 2】 ニュージーランドを貫くプレート境界に対する今回のクライストチャーチ地震の位置。
もう一つ注目すべき点は、今回の地震は、昨年 9月の地震によって大きな応力の変化が生じた場所で発生したという点である。これは偶然とは考えられない。今回の地震は、昨年 9月のダーフィールド地震の余震であるのか、それともダーフィールド地震によって誘発された新たな地震であるのか。我々は前者と後者の間のグレーなエリアを見ている。おそらく、昨年のダーフィールド地震が今回の地震を起こした断層の圧力を臨界点以上に高めたであろうが、今回の地震で解放された地殻の歪みのほとんどは、(ダーフィールド地震がおきた) 6ヶ月前よりもはるかに前から蓄積されていたものであろう。
【図 3】 2010年 9月のダーフィールド地震の余震と、地殻の歪みの変化。
今後数日から数ヶ月にわたってクライストチャーチ市民が直面する地震のリスクにとって、この図はどのような意味があるのだろうか。これまで(昨年 9月の地震以降)よりも余震が増えるだろうが、それ以上のことを推測するのはためらわれる。私は、カンタベリー平野の地下にさらに大きな地震の種が潜んでいないように、そして、クライストチャーチ市民とニュージーランド国民が今回の災厄に直面しても彼らの特質である快活さと回復力を発揮するようにと祈るばかりである。
《2011年 2月 22日付更新》
以下は、北島の南部・ウェリントン近郊で記録された地震波形である:
【図 4】
この図から、揺れが数分間にわたって継続し、揺れが始まってから 1~2 分後に最大の震幅に達したことがわかる。
Geonet から 「報告された震度分布図」。色分けは改正メルカリ震度階による:
【図 5】 2月 21日(訳注: 22日の間違い?)の地震で報告された揺れの強さ。メルカリ震度階による。震度 8-オレンジ、7-薄いオレンジ、6-黄色、5-緑色、4-青色。
最大震度が震源に近いクライストチャーチに集中している点と、そこから離れると急速に減衰している点に注目してほしい。昨年 9月の地震ではもっと広い範囲で強い揺れが感じられたのとは対照的である。これは、今回の M6.3 の地震が昨年 9月の地震に比べてはるかに少ないエネルギーしか放出しなかったものの、震源の位置が近かったためにエネルギーが市街地に集中したことを示している。
【図 6】 20101年 9月 に発生した M7.0 の地震の震度分布。色分けは図 5 と同じ。
多くの写真がクライストチャーチの被害を伝えているが、ヘリコプターから撮影したこのビデオ映像は全体的な被災状況をよく伝えている。いくつかのビルディングが完全に崩壊しているのは明白だが、それよりもはるかに多くの構築物が無事に残っていることに注目すべきである(おそらく、それらの多くは大規模な補修が必要かもしれないが)。建物の中に閉じこめられたり負傷したりした人や、数百名に上る負傷者の友人や家族にとっては大した慰めにはならないかも知れないが、ニュージーランドの厳格な建築規制がまたもや多くの人命を救ったと言えるのではないだろうか。
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