10月23日にトルコ東部で M7.2 の地震(震源の深さ 16km、地図)が発生し、大きな被害がでました。この原稿を書いている時点で、死者数は 600 を超えています。
この地震の発震メカニズムやその背景にあるプレートの動きについては、すでに新聞などで解説されています。それらの解説をまとめると ――
- アラビア・プレートが北進してユーラシア・プレートと衝突している
- その衝突によってユーラシア・プレートが圧縮され内部に歪みがたまっている
- この歪みとして蓄えられたエネルギーの一部が逆断層の運動によって解放されたのが今回の地震である
- 2011年10月 トルコ東部の地震 (東京大学地震研究所)
- NGY地震学ノート No.39 (名古屋大学地震火山・防災研究センター)
- 3つのプレートが衝突 エネルギー内部で解放か (産経新聞)
- トルコ地震:1200キロ断層の東で 76年にもM7.3 (毎日新聞)
シカゴ大学の地質学者で、テクトニクス、大陸の変形、古地磁気学を専門とする Chris Rowan 氏が、『サイエンティフィック・アメリカン』誌や自身のブログに、もう少し広い範囲のテクトニクスを含めた解説記事を載せています。上に述べた第3のプレート、すなわちアナトリア・プレートの動きについても述べています:
上掲(2)の記事の一部を以下にテキトー訳します。掲載されている図を参照しながらお読みください:
トルコにおいて最もよく知られた地震発生源といえば、北アナトリア断層でしょう。この断層は長大な横ずれ断層で、黒海南岸沿いに伸び、イスタンブールの地下も通っています。非常に大きな被害をもたらした1999年の地震(イズミット地震)は、この断層で発生しました。今回の地震は、この北アナトリア断層よりもはるかに東で発生しました。その発震メカニズムは圧縮応力による衝上断層(逆断層)であり、北アナトリア断層のような横ずれ断層によるものではありません。
今回の地震がおきたトルコ東部は、大陸どうしが衝突する地帯にあります。この衝突は、南にあるアラビア・プレートが、北にあるユーラシア・プレートに向かって北上することによっておきています。この地域はアルプス山脈からヒマラヤ山脈まで延々と続く造山帯の一部です。今回の地震は、ザグロス山脈とアルボルズ山脈という2つの山脈の接合点近くで発生しています。これら2つの山脈は大陸どうしが衝突した結果、形成されたものです。
東部でアラビア・プレートとユーラシア・プレートが押しつぶされていることに起因する圧力は、両プレートの間に挟まれた地殻、すなわちアナトリア・プレート、を圧力の低い方向に向かって横向きに移動させます。これはちょうど、万力に挟まれたキャラメルが、万力の外にはみ出るようなものです。この西(*)に向かう横方向の運動に起因する地殻のひずみは、そのほとんどが北アナトリア断層と東アナトリア断層の横ずれ運動で解消され、最終的には地中海東部の沈み込みによって解消されます。
したがって、大局的な地質構造の配置からみると、今回の地震は、その震源よりも西の方のもっとよく知られている地殻変動と関連づけることができます。東西両地域の地殻変動は同一の原動力に反応しておきているのです。トルコ東部でのプレートの収束は、アナトリア・プレートが西向きに動くことを助長します。この西向きの運動による地殻の歪みは、北アナトリア断層と東アナトリア断層で発生する地震によって解消されます。注意していただきたいのは、このような過程は百万年を超える時間スケールでおきるということです。短期的には、今回の震源よりも西にある断層の危険性(すでに高い)が今回の地震によって影響を受けることはないと考えられます。
(*) 原文では〝eastward〟となっていますが、前後の文脈から〝westward〟として訳しました。執筆者の勘違いではないかと思います。掲載されている図で、北アナトリア断層(N ANATOLIAN FAULT)は右横ずれ、東アナトリア断層(E ANATOLIAN FAULT)は左横ずれであることに注目してください。この二つの断層の運動によって、大局的にはアナトリア・プレートが西の地中海の方に向かって押し出されていきます。そして、アナトリア・プレートの西にあるエーゲ海(Aegean Sea)では沈み込み(SUBDUCTION)が進行中で、沈降によって多島海が形成され、沿岸部にはリアス式海岸が発達しています。なお、「右横ずれ」は、断層の手前から見て向こう側が右にずれている場合、「左横ずれ」は向こう側が左にずれている場合を指します。
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