京都大学、東北大学、海洋研究開発機構が共同で科学誌〝Nature Communications〟に発表した研究成果です。「地球でプレートテクトニクスが起こっている理由が、プレート直下のアセノスフェアが部分的に融けているからであるということが、本研究によってほぼ確実になりました」とのこと。それにしても「プレートテクトニクスの根幹に関わる論争決着に大きな前進」という副題はインパクトがあります:
- 地球のアセノスフェアは二酸化炭素によって部分的に溶けている(京大の報道発表)
- 地球のアセノスフェアは二酸化炭素によって部分的に溶けている (京大の詳しい説明、PDF形式)
- 地球のアセノスフェアは二酸化炭素によって部分的に溶けている (海洋研究開発機構の報道発表、詳しい説明)
これまでの経緯は ――
- プレートテクトニクス理論成立初期は、アセノスフェアが部分的に溶けていることが原因であるとするアセノスフェア部分溶融説が有力視されていた。
- その後、微量な水が存在するだけで、溶けなくてもマントルかんらん岩は柔らかくなるといった非溶融説が複数提唱され有力視される。
- さらにその後、二酸化炭素を含むマントルかんらん岩の高温高圧溶融実験や地球物理学的解析によって、アセノスフェアに二酸化炭素を大量に含むマグマが存在している可能性が提唱された。しかし物的証拠はなかった。
今回の研究では ――
- 日本海溝近傍のプチスポット火山のマグマに着目。プチスポットのマグマには、他の火山のマグマに比べてはるかに大量の二酸化炭素が含まれていることが明らかになっていた。
- 二酸化炭素に富むプチスポットマグマが実際にはどこで生成されたのかを決定するために、複数相飽和実験と呼ばれる高温高圧溶融実験を実施。
- その結果、プチスポットマグマがプレート下部ではなく、プレート直下のアセノスフェアに由来することの証拠をつかんだ →
- アセノスフェアは二酸化炭素の存在によって部分的に溶けており、
- そのマグマがプレートの屈曲に伴ってプレート下部に貫入し、周囲のマントルかんらん岩と化学的に安定に共存する状態(最終平衡)に達し、
- その後噴火したものがプチスポットであることがわかった。
- アセノスフェアが部分的に溶けているという仮説は、仮説ではなく確かな現象であることが実証された。
プチスポット火山についてはこのブログでも紹介したことがあります:
- チリ海溝沖でも 「プチスポット火山」 を発見 (10年10月8日)
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