学術誌『ethology』(動物行動学)に7月3日付で掲載された論文です。筆頭著者はドイツの マックス・プランク動物行動研究所(Max Planck Institute of Animal Behavior)の Martin Wikelski 氏です。同氏は下の関連記事にあるイカルス計画の中心人物です:
- Potential short‐term earthquake forecasting by farm animal monitoring (農場の動物を監視することによる地震の短期予知の可能性)
論文の "One Sentence Summary" には次のように書かれています —— 地震の前、家畜の集団で異常に高い活動レベルが見られ、その先行時間(1〜20時間)は震央からの距離(5〜28km)と負の相関関係を示した。
以下は論文の要旨(Abstract)のテキトー訳です:
動物の行動の変化が短期的な地震予知に使えるか否か、長い間議論されてきた。
私たちは、2016と2017年にイタリアで発生した一連の地震の前・中・後にバイオ・ロギング・タグを利用して、壊滅的なマグニチュードM6.6のノルシア地震の震源地近くの農場の家畜(牛、犬、羊)の行動を継続的に観察した。観察期間は 2016年10月~11月と、2017年1月~4月である。
観察期間中に発生した地震は 2016年に 5,304回、2017年に 12,948回で、マグニチュードは広範囲に及んだ(0.4 ≤ M ≤ 6.6)。これらの地震と継続的に計測された動物の活動を関連付けることで、動物が地震に対してどのように集団的に反応するかが判明した。
また、動物たちが安定した建物の中にいる時には地震前に一貫した予知行動が見られたが、放牧地にいる時には見られなかった。
このような予知パターンは、地震活動が活発な時期だけでなく、地震活動が低調な時期にも見られた。
予知の先行時間(1~20時間)は、牧草地から震源までの距離と負の相関がある。
動物集団の継続的なバイオ・ロギングは、統計的に信頼性の高い動物の活動パターンを提供し、それによって短期的な地震予測のための貴重な知見が得られる可能性があることを本研究は示している。
当論文では、先験的なモデルのパラメータに基づいて、リアルタイム観測ステーションで使用することができる地震前の動物の活動を判別するための経験的な閾値を提供している。
人間も動物の一種ですから、人間の集団にも地震前に何か普段と違う活動が見られるかも知れません。最近、新型コロナ・ウィルス対策としての外出自粛がどの程度行われているかを調べるために、携帯電話の位置情報を使って新宿駅や渋谷駅などの人出を推定することが行われました。この手法を常時使って人間集団の活動をモニターすれば、地震の前兆が捉えられる可能性があるのではないでしょうか。
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