2017年6月4日日曜日

Indenter always wins


今から600万~400万年前に丹沢山塊が本州に衝突、つづいて今から200万~100万年前に伊豆半島が丹沢山塊に追突。いずれの陸塊も日本列島から遠く離れた南の海で誕生し、フィリピン海プレートに乗って北上してきた ―― この事実は、プレートテクトニクスの考え方が一般にも広く浸透し常識となった現在ではよく知られています。

伊豆半島の衝突を最初に指摘したのは杉村新氏で1972年のことでした。同氏はかつて次のように語っています:
衝突という言葉は実態をあらわしているとは思えません。実際には穏やかにぶつかるのですから付着と言うべきだと思います。地学で衝突というときは隕石が地球に落ちてくる場合などを指しますので、本当はこういうものと区別しなければならないのです。(神奈川県立博物館編『南の海からきた丹沢 ― プレートテクトニクスの不思議』、有隣堂、1992)

たしかに、カタツムリよりも遅い速度で近づいてきて本州の一部になったのですから「付着」の方が適切なようにも思えます。しかし、丹沢山塊や伊豆半島の付着あるいは衝突によって本州に生じた変形の大きさを見ると、とても「付着」とは言えず、やはり「衝突」の方がふさわしいのではないかとも思えます。

ここで興味をそそられるのは、本州側の変形の大きさに比べると伊豆半島側はあまり変形していない点です。伊豆半島に先行して衝突した丹沢山塊は、伊豆半島の衝突によって地層が垂直になったり反転しかけたりするなど大きく変形していますが、伊豆半島が追突してくるまでは原形に近い形を保っていたのかも知れません。

衝突する側より衝突される側の方が大きく変形するのは一般的な現象のようです。

地球上最大の衝突帯といわれるヒマラヤでも事情は同じです。インド・オーストラリア・プレートに乗って北上してきたインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突しているのですが、その影響はヒマラヤ山脈の形成やチベット高原の隆起にとどまらず、ユーラシア大陸の奥深くまで地殻の変形がおよんでおり、シベリアのバイカル湖周辺の地溝帯も影響を受けているとされています。それに対して衝突したインド亜大陸の側には、さして大きな変形は起きていません。

このように衝突する側よりも衝突される側の方が大きく変形することについて、東京大学名誉教授の上田誠也氏は  “Indenter always wins”(Indenterは凹ませるものの意)と表現しています。衝突される側の変形の方が大きくなる理由はよくわかっていないようです。