10月1日に火星、11月19日に水星、11月28日に太陽、12月26日に地球に最接近するアイソン彗星(注)。この彗星をハッブル宇宙望遠鏡で撮影した画像を処理すると、3つの輝く「物体」が浮かび上がり、それらは3隻の巨大宇宙船、あるいはアイソン彗星の核とそれをエスコートする2隻の巨大宇宙船であると主張する向きがあります。世間の注目を集める彗星が近づいてくると、必ずといっていいほどこの種のトンデモ説が現れるのですが、以下の動画はその例です:
- Is Comet Ison an Alien Spacecraft? (アイソン彗星はエーリアンの宇宙船か)
- COMET ISON?? STARSHIP ISON?? YOU DECIDE. (アイソン彗星か、宇宙船アイソン号か 決めるのはあなた)
- WOW WOW WOW!! COMET ISON,,THE HARBINGER" UP CLOSE (ワォワォワォ!! 〝先触れ〟のアイソン彗星が間近に迫っている)
上記のような説に対して、ハッブル宇宙望遠鏡の公式サイトが解説を載せています:
- What's Going On With This Comet ISON Image? (このアイソン彗星の画像には何が起きているのか、画像4葉あり)
説明をまとめると以下のようになります:
- 問題となっている画像は、ハッブル宇宙望遠鏡がアイソン彗星を撮影した3枚の異なる画像を均等に合成したものである。アイソン彗星そのものが3つに分かれているわけではない。そのように見えるのは、違う時間に撮影した画像を合成したために生じた人為的結果である。
- 合成前の3つの画像でアイソン彗星が異なって見えるのは、撮影中にハッブル宇宙望遠鏡もアイソン彗星も動いているからである(3枚とも露出時間は7分20秒)。彗星がぶれて写っているのは、走っている自動車から撮影した周囲の景色がぶれて写るのと同じ理由による。
- 3枚の画像を撮影中、ハッブル宇宙望遠鏡はアイソン彗星ではなく、その背景にある恒星や銀河を精確に追尾していた。つまり、恒星や銀河はぶれずに写る。
- 今回のケースでは、彗星の動きよりもハッブル宇宙望遠鏡の動きによるぶれの方が大きい。ハッブルは95分で地球の周りを一周する。3枚目の画像の露出が終わったのは、1枚目の画像の露出開始から46分後である。
- この46分の間にハッブルは地球を半周し1万3000km離れた場所に移動している。恒星や銀河と比べると彗星までの距離は近いので、視点の移動によって彗星の位置は背景の恒星に対して変化する。この効果は視差(パララックス)として知られている。
(注): 日付はいずれもアメリカ時間です。日本時間では1日早まる場合があります。たとえば、火星と地球への最接近は、日本時間ではそれぞれ10月2日午前2時28分、12月27日午前7時42分になります。
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