3月8日付「箱根山群発地震と富士山噴火」で紹介した『日本の火山を科学する』(神沼克伊・小山悦郎、サイエンス・アイ新書、2011;書評)には、火山とは直接関係のない内容のコラムも掲載されています。「活断層と原発」と題したコラムでは、島根半島にある宍道断層が中国電力島根原子力発電所(地図)にもたらすリスクをどう考えるべきかについて述べています。以下はその抜粋です:
島根半島の活断層は1995年以後の見直し調査で発見され、宍道断層と名づけられ、C級に属します [注:平均のズレ速度が1年あたり0.01~0.1mm]。
「活断層の長さがこれまでの予想以上に長い。だから大地震が発生する」と学者は強調します。では、その大地震はいつ起こるのでしょうか。鳥取県西部から島根県全域にかけては、『出雲風土記』の書かれた時代から今日までの千数百年間に、被害をともなうような地震は3回しか起こっていません。880年の出雲地方の地震(M7)、1872年の浜田地震(M7.1)、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)です。1978年の鳥取県中部の地震(M6.1)、1989年の鳥取県西部の地震(M5.4)がありますが、被害はほとんどありませんでした。
この地方は大地震に見舞われることがきわめて少ないのです。原発が今後100年間稼働したとしても、その間に宍道断層が動いてM7クラスの地震が起こることはほとんどないと考えるほうが自然です。また、原発の建物は耐震性です。過去の地震活動も原発の耐震性も考えず、断層の長さだけから原発の危険性を説く学者の態度は、ただ不安をあおるだけの無責任な発言です。
原発の稼働期間と活断層の活動サイクル、人間の営為と地質学的な時間尺度を比較すれば、当該原発の稼働期間中に、近傍の活断層が動いて大地震が起きる確率が非常に小さいことは理解できます。
上記書籍の初版が出版されたのは2011年2月25日です。それから2週間後、東北地方太平洋沖地震が発生し、福島第一原子力発電所ではメルトダウンが起きてしまいました。原発直近の活断層が動いたわけではありませんが、コラムを書かれた方はどう思われたでしょうか。
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