2012年11月4日日曜日

氣色惡しくて異る香有る風の温かなる、吹きて渡る (その1)


平安時代末期に成立したとされる『今昔物語集』の巻24第13に「慈岳川人、地神に追はるる語」という話が載っています。

話のあらすじは次のようなものです ―― 文徳天皇が崩御(858年)されたので、その陵墓の場所を定めるべく、大納言の安倍安仁(あべのやすひと)が陰陽師の滋岳川人(しげおかのかわひと)を伴って現地調査に赴きます。ところが、この調査の際に祟り神である「地神」の領域を侵してしまったため、帰路についた大納言一行を地神の集団が追ってきます。大納言と陰陽師は田の中にあった稲わらの周囲に結界を張って隠れ、命拾いをするのですが、その年の大晦日に再び地神の集団が2人を探しにやって来ます。今度は、2人は寺のお堂の天井に登って身を潜め、大納言はお経を、陰陽師は呪を唱えて事なきを得ます。メデタシ、メデタシ ・・・

この物語の原文は以下で読むことができます:

現代語訳には以下があります。上に書いたあらすじではわかりにくいと思います。さほど長い話ではありませんのでぜひお読みください:

この話で地神が現れるときの描写を抜き出すと次のとおりです:
  1. 千萬の人の足音して過ぐ
  2. 氣色惡しくて異る香有る風の温かなる、吹きて渡る
  3. 地震の振る樣に少し許動かして過ぎぬれば

(1)と(3)は、この物語に登場する「地神」が地震と関連していることを示しています。

(2)は(3)の直前にあります。両者に相当する部分の現代語訳を拾い出してみると、「気持ち悪く、嫌な臭いの、生ぬるい風が通り抜けると、途端に大きな地鳴りが始まりました」、「なにやら異様な臭いが立ち込めだし、またドスン!ドスン!という地鳴りが始まりだし ・・・」という具合で、地震の前には異様なにおいがしたり温度の異なる風が吹くことがあるという通念が当時の人々の間にあったことをうかがわせます。


続く