以下は記事の概略です:
「ハビタブル・ゾーン」は時代遅れ最近読み終えた本に『火星の生命と大地 46億年』(丸山茂徳、ビック・べーカー、ジェームス・ドーム、講談社)があります。詳しい内容は後日ご紹介しようと思っていますが、この本の著者たちも、プレートテクトニクスが存在しないと複雑な生命形態は進化しないという立場をとっています。そして、現在の火星ではプレートテクトニクスは機能していないが、火星が誕生してから数億年間はプレートテクトニクスがはたらいていた形跡があり、生命も進化し得たと考えています。また、現在の火星のいろいろな地形も、太古のプレートテクトニクスの痕跡として解釈可能であるということをわかりやすく解説しています。そして、地球のプレートテクトニクスも遠い将来には止まってしまうが、そうなったときの地球の姿を現在の火星は見せてくれていると述べています。
太陽系外で生命が存在する可能性のある惑星を探すには、まず恒星の周囲の棲息可能領域(ハビタブル・ゾーン、habitable zones)内にある惑星を目標とすべきだ、というのが従来の考え方だった。棲息可能領域とは、恒星から遠すぎて水が完全に凍りついてしまったり、逆に近すぎて水が沸騰したりせず、水が液体のまま存在できる領域。しかし、このアプローチは時代遅れになってしまった。
棲息可能領域の外側でも生物が生存できる環境がありうると考えられるようになってきた。たとえば、木星の衛星エウロパ(写真右上)は明らかに棲息可能領域の外側にあるが、凍結した表面の下に液体の海洋があり、生命を宿している可能性があると考えられている。一方、同じ木星の衛星でも、ガニメデ(写真左下)には可能性がない。なぜなら、液体の海洋が 2層の氷の間に閉じこめられているため、生命に必要な栄養源とエネルギーの持続的な補給がない。
まとめると、棲息可能領域の外側にある惑星や衛星でも、海洋のような環境があれば生命が存在する可能性があるが、その環境が隔絶されていないことが必要である。生命の主要な構成成分、たとえば水素・酸素・窒素・燐・硫黄などへのアクセスが可能で、基本的な化学反応をサポートする条件が維持されていることが必要だ。地球上でこの条件がみたされているのは、プレートテクトニクスがあるからに他ならない。
プレートテクトニクスは生命の環境を維持
プレートテクトニクスによって原始的生命が摂取する栄養素が補充されたという見方が、惑星科学者の間で広まっている。バクテリアのような生命が必要とする栄養素が、消費し尽くされてしまった惑星表面を想像してほしい。栄養素の補充が必要だが、それはプレートテクトニクスによっておこなわれる。
Spohn 氏は、この問題を掘り下げて研究すればするほど、生命にとってプレートテクトニクスがますます必要なものだということがわかってきた。たとえば、生命が海洋から強固で安定した陸地に進出する場合、その陸地はプレートテクトニクスの産物である。プレートテクトニクスは、地球の部分的に溶融した核の対流によっておこる地磁気の発生とも関連している。この磁場が太陽風をそらすことによって地球上の生命を保護している。もし、地球磁場が存在せず、太陽風が直接大気圏に到達したとしたら、それは惑星の大気を徐々に減少させるだけでなく、高エネルギーの粒子によって生物の DNA を傷つけてしまう。
プレートテクトニクスと炭素リサイクル
もう一つの要素は、地球の温度を安定させるために必要な「炭素のリサイクル」。これもプレートテクトニクスの存在によって成り立っている。大気中の炭素は、(生物の遺骸などを通じて)地中のバクテリアに摂取され、さらに惑星内部に移行し、火山活動によって再び大気中に放出される。この循環をプレートテクトニクスが支えている。プレートテクトニクスのない惑星では、これらの個々の過程は存在するとしても、それらを連携させてリサイクルを完結させる原動力が存在しない。
プレートテクトニクスと水
このような証拠が積み上げられ、多くの生命形態はプレートテクトニクスが働いている世界でしか存続できないという説得力のある説が作り上げられた。
宇宙生物学者にとっては、この説にはもう一つの興味深い要素がある ―― 惑星科学分野の多くの科学者たちは、プレートテクトニクスが機能するためには、惑星表面近くの岩石が脆弱になっていなければならないと考えている。そして、これを最も効果的に成し遂げる分子は H2O、すなわち水である。したがって、プレートテクトニクスが機能している世界では、水が存在している公算が高い。つまり、生命にとって理論的に必要な 2つの要素 ―― プレートテクトニクスと水 ―― には、一方があれば他方も同時にあるという共存関係がある。
生命の指標としてプレートテクトニクスを探す
太陽系外の惑星に生命を探そうとするとき、プレートテクトニクスの有無が指標となりうる。Spohn 氏はこれが可能性の段階ではあるが、妥当な考えであるとみなしている。興味深いアイデアだが、現時点では思弁にすぎないとも彼は説明する。遠方の惑星のプレートテクトニクスは、現在の技術水準では検出するのが困難である。
われわれの住む地球ですら、衛星軌道上からプレートテクトニクスを検出するのは困難がともなう。大陸の形状のジグソーパズルと造山帯があれば、プレートテクトニクスの間接的な証拠にはなる。海洋中の中央海嶺が見つかればさらに説得力が増すが、中央海嶺は水に覆われており、宇宙からは見えない。太陽系外惑星の外観を観察するには、その惑星の軌道上に探査機を送り込む必要があるが、これは現在の人類の技術的能力を超えている。もしこれが達成できたとしても、得られる証拠は依然として間接的なものである。現在のところ、惑星のテクトニックな活動を離れたところから判断する確実な方法はない。
したがって、プレートテクトニクスを異世界の生命の指標として用いるのは時期尚早である。しかし、われわれの技術がもっと高度になれば、将来は可能になると思われる。想像して見てほしい。大気と水と有機物質を持った地球サイズの惑星を発見する場面を。それが、宇宙の中で生命を見つけ出す期待を高めることには、疑問の余地がない。
写真は木星の 4大衛星(ガリレオ衛星):イオ(左上)、エウロパ(右上)、ガニメデ(左下)、カリスト(右下) Image Courtesy: NASA/JPL-Caltech