2008年12月28日日曜日

縮む環太平洋火山帯

沈み込み帯はを描く

オーストラリアの大学(モナッシュ大学とオーストラリア国立大学)の研究チームが、昨年3月にイギリスの科学誌『Nature』に発表した研究ですが、その紹介記事が下記に掲載されています:
上記記事の内容をまとめてみます:
  • オーストラリアの科学者が、太平洋をぐるりと取り囲む火山の連鎖、すなわち環太平洋火山帯(リング・オブ・ファイア)の形が、なぜその名のとおりの環状ではないか、なぜ縮みつつあるのかを解明した。
  • モナッシュ大学とオーストラリア国立大学の研究者たちは、一つのプレートがもう一つのプレートの下に沈み込むときに何が起こるのかについて研究。二つのプレートの境界が、プレート自体の移動と同じ速さで(逆方向に)移動することを見いだした。このほどイギリスの科学誌『Nature』に掲載された新しい理論は、プレート境界が世界各地で見られる「弧」(arc)の形に数百万年の年月をかけて進化する原因を説明している。
  • 環太平洋火山帯の限られた部分しか、環太平洋火山帯と同じ方向に凸の弧を描いていない。なぜ、ほとんどの部分が、環太平洋火山帯のリングとは逆の方向に凸の弧を描くのか、解明されていなかった。研究チームの発見によると、プレート境界の長さが、どちらの方向に凸の弧を描くかを決める要因になっている。地球上に存在するプレート境界の多く ―― その多くは環太平洋火山帯を形成している ―― は全長3000km未満であり、凹んだ形状(環太平洋火山帯のリングとは逆方向に凸)を示す傾向がある。
  • プレートの沈み込みを理解する鍵は、マントル内に沈み込んでいるプレートが、そのプレートの幅に応じた有限の長さを持っているという点である。沈み込みは、本質的に3次元の現象である。一つのプレートがマントルの中に沈み込んでいくと、周囲のマントル物質がプレートの縁を回り込むように流れる。
  • プレートが地球内部に深く沈み込んでいくにつれて、その縁を回り込むようにマントル物質が流動するため、プレート(の左右の縁)はめくれ上がる(カールする)ような形状になる。このカールが地表まで波及して沈み込み帯の湾曲となり、ひいては弧の形をしたプレート境界を形成する。そして、この弧は沈み込むプレートとは逆方向に移動する。
  • この研究成果がもっとも大きな意味を持つのは、世界最長の沈み込み帯に位置する南米・アンデス山脈である。通常、山脈は大陸どうしの衝突によって形成される。しかし、アンデス山脈は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む場所にある。南米大陸の下に沈み込んでいる海洋プレートは幅が非常に広いため、沈み込んだプレートとマントルとの関係は、他の場所とは大きく異なっている。その結果として、アンデス山脈は沈み込むプレートの両端からもっとも遠いプレートの中央付近(ボリビアのあたり)で最も高く隆起している。
上記の記事で「弧」といっているのは、上に掲げた地図内に赤色で示した部分が代表的な例です。太平洋プレートかフィリピン海プレートが沈み込むプレート境界ですが、いずれも太平洋の中央部に向かって凸、あるいは、プレート移動の上流方向に凸の形状をしています。

ポイントは三つです:
  1. 沈み込んだプレート(スラブ)がマントルの流動によってカールし、その影響でプレート境界が弧の形状となる。
  2. 沈み込み帯のプレート境界は、プレート移動と同じ速さで逆方向に移動する。
  3. 環太平洋火山帯は、プレート境界が太平洋の中央部に向かって移動するために、収縮する(リングの直径が短縮する)。
花綵列島(かさいれっとう)という美しい言葉があります。広辞苑によると「円弧状または弓形に排列され、花綵(はなづな)のような形をなしている列島。弧状列島の別称」で、特に千島列島・日本列島・琉球列島を指す呼称です。また、花綵(はなづな)とは「花を編んで作ったつな。西洋で、祭の装飾などに用いる」とあります。この花綵の円弧あるいは弓形の形状は、地下深くのマントルの流動がプレートをカールさせた結果が地上に現れたものということになります。

マントルの沈み込みは、しばしばテーブル・クロスがテーブルから落ちることに例えられます。この例えでは、テーブルの縁(海溝軸に相当)は動きませんが、上述の研究が示す実際の沈み込み帯の動きを反映させるとすれば、テーブル・クロスが動くのとは逆の方向にテーブルを移動させなければなりません。

ナイアガラの滝
Credit: Courtesy NASA, Visible Earth

Image source: Earth Science World Image Bank


私はこれまで、沈み込み帯の形が弧を描くことと、沈み込み帯が海嶺方向に移動することは、滝のアナロジーで理解していました。滝を流れ落ちる水流が沈み込む海洋プレート、滝を形成する岩盤がプレートの下のマントルに相当します。上の写真はナイアガラの滝を上空から撮影したものです(写真をクリックすると拡大します)。中央やや左下に「Canadian Horseshoe Falls」と書かれている部分に着目してください。プレートの沈み込みと同じように上流に向かって凸の弧を描いています。「Horseshoe」とは馬蹄のことで、まさに弧の形状を表しています。幅の広い滝がこのような形状になるのは一般的な現象で、滝の落下口が水流の侵食によって上流側に後退することが原因です。川の流れは、岸よりは中央部分が速いので、特に中央部分の侵食が速く進み、馬蹄型あるいは弧の形となります。ちなみに、ナイアガラの滝が形成されたのは、現在位置よりも11km下流の地点で、年に約1~1.5mずつ後退して現在の場所まで移動したとのことです。